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シラキトビナナフシの小窓(分布)

⇒ シラキトビナナフシの分布地図

シラキトビナナフシの分布 シラキトビナナフシの分布について?


北海道にナナフシは、かなり前からいたようです。

 昭和42年(1967年)生まれの知り合いが教えてくれた情報によると、「小学生のころ、函館市赤川のダムの横のどんぐりの木で、ナナフシを捕まえた」そうです。そのナナフシは、「5センチくらいの大きさで、緑色をしていて背中に翅があり、赤いスジが背中にあった」そうです。この方は、小さい頃(昭和50年代前半)はいつも山や川に出かけてクワガタを採ったり虫を採って遊んでいたそうで、ナナフシのことは今でも覚えているそうです。
 話を聞いていると、この方が見たのは、シラキトビナナフシ(Micadina sp.)のようです。

この話を聞いて、いろいろ調べて見ると北海道で採集したナナフシについて言及している記録を見つけました。

 
 「ナナフシ北海道に産す」(江原昭三・森谷清樹)という記録によると、1958年6月13日に北海道の三笠市で、ミズナラからナナフシの第1令幼虫を1個体採集したそうです。名前は、ヤスマツトビナナフシ( Micadina yasumatsui Shiraki)のようです。北海道におけるナナフシの最初の正式な記録だそうです。
 さらにこの記録には、新聞記事による非公式の記録についても言及しています。1957年9月22日付の北海道新聞に、函館郊外赤川水源地で、中学生がトビナナフシ( Micadina phluctaenoides Rehn)を採集したという記事が載っていたそうです。
上記表中の文章は、『ナナフシ北海道に産す』(江原昭三・森谷清樹)、昆蟲27(2),170−171,(日本昆虫学会)を参考にさせていただきました。
                   (国立情報学研究所のサービスである「論文情報ナビゲータ」にあります。)

上記の3つのことから、トビナナフシは北海道にかなり前から生息していたようです。それも、北海道の道南と道央の広い範囲に生息していたようです。特に、知り合いの方のナナフシと1957年の中学生のナナフシは、どちらも函館赤川水源地(赤川のダム)で同じ場所になります。
 しかし、名前が1957年のものはニホントビナナフシであり、1958年のものはヤスマツトビナナフシであり、1970年代のものはシラキトビナナフシと思われるものであり、はっきりとは種類は特定できません。

 2000年に入ってからの北海道のトビナナフシについて書かれているホームページやブログを見て見ると、そのほとんどがシラキトビナナフシのことを書いています。場所は、北海道の道南から道央にかけての範囲です。私が2007年8月に見つけたシラキトビナナフシは、函館赤川水源地から2kmくらいの場所でした。もしかして、北海道のトビナナフシは、ほとんどがシラキトビナナフシなのかも知れません。

 今後、北海道のトビナナフシについて調べていきたいと思っています。また、可能であれば全国のシラキトビナナフシについてもその分布について調べていきたいと考えています。

(2007年10月19日 記)

 

北海道のトビナナフシについて  ━━ 時代によって同定に混乱が見られる? ━━

北海道に生息するするのはシラキトビナナフシ

 トビナナフシについて、図鑑や論文、報告文などでどのように記述されているか調べて見ました。
特に、トビナナフシ属のニホントビナナフシ・ヤスマツトビナナフシ・シラキトビナナフシの3種について、その分布について調べていくと、北海道に生息する種類がその時々によって違っていました。 ( トビナナフシの記述 参照 )

 1949年発行の『日本昆虫図鑑』(北隆館)によると、トビナナフシ(Micadina phluctaenoides)が北海道・本州・九州に分布するとあります。
 その10年後に書かれた『昆蟲Vol.27』の「ナナフシ北海道に産す」(江原昭三・森谷清樹)の中では、1958年6月13日にヤスマツトビナナフシ(Micadina yasumatsui)が北海道三笠市達布山で採集され、九州大学安松京三教授が同定したとあります。しかし、この同定については、『新潟県のナナフシ類』(樋熊清治)によると、「・・・しかし、成虫が未確認であるため種の決定を保留している」と付け加えられています。
 さらに、1955年発行の『原色日本昆虫図鑑(下)』(保育社)では、ヤスマツトビナナフシの分布は九州となっていることと、1965年発行の『原色昆蟲大圖鑑[第V巻]』(北隆館)でもヤスマツトビナナフシは九州の山地のみに産しと書かれています。これは、安松教授が執筆した部分です。
 このことから、上記の三笠市のトビナナフシはヤスマツトビナナフシではないように思われます。

 また、前述の「ナナフシ北海道に産す」の中に出てくる、1957年9月22日付北海道新聞朝刊のトビナナフシ(Micadina phluctaenoides)が函館市赤川水源地で見つかったという記事の紹介は、上記の『日本昆虫図鑑』(北隆館)に記載されている分布の影響があると考えられます。上記『原色昆蟲大圖鑑[第V巻]』(北隆館)でもトビナナフシ(Micadina phluctaenoides)が北海道に分布すると記載されています。

 「ナナフシ北海道に産す」が書かれた時期は、シラキトビナナフシ(Micadina sp.)の名前がどこにも記載されていなかった、あるいはその存在さえ明らかでなかったと考えられます。

 その後、1970年12月22日に、日本のナナフシの半数近くを学名記載した素木得一博士が亡くなりました。
そして、1970年代になって初めてシラキトビナナフシ(Micadina sp.)の名前が登場するようになりました。

 図鑑の中では、1977年発行の『全改訂新版 原色日本昆虫図鑑(下)』に、シラキトビナナフシが新潟・長野・福島・愛媛の山地帯に分布すると記載されるようになりました。
 また、2001年3月の『新潟青稜大学紀要第1号』の「新潟県のナナフシ目昆虫」(長島義介)の中に、シラキトビナナフシの記録として、樋熊の記録(1996)湯沢町苗場山カッサ沢2♀(1971)とあり、1971年にはシラキトビナナフシの名前が登場しています。
 
 「長岡市立科学博物館研究報告 No.8 1973」の『新潟県のナナフシ類』(樋熊清治)の中で、シラキトビナナフシ(仮称)としてこの和名を使うようになりました。

 ニホントビナナフシの分布については、本州以南というのがその後の図鑑等での記述になっています。
しかし、ヤスマツトビナナフシの分布については、1971年発行の『動物系統分類学7(B)節足動物(Vb)昆虫類(中)』の中で、前述の「ナナフシ北海道に産す」の影響で、「・・・北海道では、わずかヤスマツトビナナフシの分布が・・・」と記載されています。さらに、1990年代に入っても、1996年発行の『日本動物大百科第8巻昆虫T』(平凡社)の中でヤスマツトビナナフシが北海道(松前半島)に分布すると記載されています。この部分の執筆は岡田正哉氏ですが、同氏の1999年発行の『ナナフシのすべて』(トンボ出版)においても同様の記述になっています。

 2003年3月20日発行の『えぞえんしす29号』の柏崎昭氏記載の「穂別町でのヤスマツトビナナフシの記録」の中で、「北海道では渡島半島南部でしか分布が知られていなかったヤスマツトビナナフシが胆振支庁管内穂別町で採集された・・・」と記述されています。このヤスマツトビナナフシは、前述の諸記述の影響によるものと考えられますので、このヤスマツトビナナフシは、シラキトビナナフシのことではないかと思われます。

 北海道のトビナナフシについては、今年採集した我家のトビナナフシは間違いなくシラキトビナナフシですし、多くの方が北海道で採集しているトビナナフシもシラキトビナナフシです。
 また、前記「新潟県のナナフシ目昆虫」によると、シラキトビナナフシが一番標高の高いところに適応しているようですし、熱帯や亜熱帯を中心とするナナフシの分布を考えると、北の寒冷な気候に適しているのはシラキトビナナフシのように思われます。

 これらのことから、素人ながらに結論付けて見ると、北海道に生息するトビナナフシは、「シラキトビナナフシ」ということになるのではないかと思います。しかし、ヤスマツトビナナフシが生息するのかどうかは、私には不明です。

(2007年11月12日 追記)
(2007年11月21日 追記  『新潟県のナナフシ類』(樋熊清治)「長岡市立科学博物館研究報告 No.8 1973」に関係する部分を追加
(2007年12月8日 追記 『穂別町でのヤスマツトビナナフシの記録』(柏崎昭)「えぞえんしす29号」に関する部分を追加) 


北海道のトビナナフシについて  ━━ 2種のトビナナフシが生息 ━━

北海道には、シラキトビナナフシとヤスマツトビナナフシの2種が生息する
 北海道では、トビナナフシの分布について様々な変遷があり、図鑑などでもかなりのばらつきがありました。文献では登場してきたヤスマツトビナナフシの生息が近年確認されてこなかったために、北海道ではヤスマツトビナナフシの分布について疑問視する声も聞こえていました。実際、管理人も2007年からほぼ10年間採集出来たのはシラキトビナナフシばかりでしたので、ヤスマツトビナナフシの生息については疑問がなくなることはありませんでした。

 そのような中、2016年8月に北海道松前町で白崎氏によってヤスマツトビナナフシが採集され、9月の堀氏による調査でもヤスマツトビナナフシの生息が確認されています。詳細は『北海道博物館研究紀要 第2号』の「北海道におけるシラキトビナナフシとヤスマツトビナナフシの分布について」(堀繁久・栗林一寿)に書かれています。

 ヤスマツトビナナフシの確実な記録として、1990年の西島氏の「北海道の直翅目(続)(付ナナフシ目)」があります。この報文の中で、1987年8月に知内町小谷石でヤスマツトビナナフシが採集されたことが記されています。また、西島氏の標本が北海道大学総合博物館に保管されており、その中に1995年8月〜9月に福島町館の沢林道と福島町岩部で計5頭のヤスマツトビナナフシの成虫(♀)の標本があります。

 管理人は、2017年6月に、松前町でヤスマツトビナナフシの2令を2頭採集し、同じ場所で7月にもヤスマツトビナナフシの5令を2頭採集しています。その後、これらの幼虫を飼育してヤスマツトビナナフシの成虫となったことを確認しています。
また、2017年8月には知内町の林道でミズナラの葉上からヤスマツトビナナフシの成虫を採集することが出来ています。この場所から直線距離で約130m離れた場所では2017年6月にシラキトビナナフシの初令を採集しているので、シラキトビナナフシとヤスマツトビナナフシの2種のトビナナフシが混棲する地域となっています。(参照:ヤスマツトビナナフシの飼育日記

 このような事から、10年近く疑問に思ってきた北海道におけるヤスマツトビナナフシの生息について生息を確認することが出来ました。

 現時点での結論としては、北海道には、シラキトビナナフシとヤスマツトビナナフシの2種が生息すると言えます。
参考文献:「北海道におけるシラキトビナナフシとヤスマツトビナナフシの分布について」(堀繁久・栗林一寿)『北海道博物館研究紀要 第2号』
(2017年8月7日 記)


シラキトビナナフシの分布について  ━━ 日本全国の分布 ━━

こちらに現在わかっている範囲でのシラキトビナナフシの分布を載せてあります。

シラキトビナナフシの分布地図

ニホントビナナフシの分布地図

ヤスマツトビナナフシの分布地図

北海道内及び全国的なシラキトビナナフシの分布については、継続して調べて行きたいと思っています。

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