シラキトビナナフシは、不完全変態という形態をとる昆虫です。その一生は次のようになります。
卵⇒(孵化)⇒初令幼虫⇒(脱皮)⇒2幼虫⇒(脱皮)⇒・・・⇒6令幼虫⇒(羽化)⇒成虫⇒産卵(単為生殖)⇒卵
このサイクルの中で、6令幼虫から成虫になるときの脱皮を特に羽化といいます。
このページでは、2008年のシラキトビナナフシの飼育・観察をもとに羽化について説明します。
シラキトビナナフシの幼虫の中胸と後胸の背面には小さな翅(翅芽)が見られます。 6令幼虫から成虫へ羽化する時にこの翅が大きくなっていきます。 |
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脱皮殻から出た直後は、翅は小さくひだ状にたたまれています。 時間をかけて体液を送り込むことによって徐々に翅が伸びていきます。 シラキトビナナフシの翅には翅脈がありますが、翅脈は枝状に分かれていて、根元部分から体液を流し込み圧力を加えることで、畳まれた部分がきれいに伸び広がっていきます。 |
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シラキトビナナフシの翅脈の様子 |
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2令幼虫の翅芽の様子 | 3令幼虫の翅芽の様子 | 4令幼虫の翅芽の様子 | 5令幼虫の翅芽の様子 |
羽化直前には 翅芽は赤紫色 になります。 |
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6令幼虫の翅芽の様子(脱皮直後) | 6令幼虫の翅芽の様子(6令中期) | 6令幼虫の翅芽の様子(6令後期) |
2008年8月12日 自然状態で羽化中のシラキトビナナフシを発見する(シラキ34号) |
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羽化は普通夜間に行われることが多いにもかかわらず、15時過ぎという昼間に羽化中の個体を発見しました。 一番近いミズナラの木から10メートルほど離れた笹の葉裏に左下画像のようにぶら下がっていました。 自然状態での羽化は、非常に珍しいので夢中で写真におさめていましたが、良く見ると触角と前肢部分が殻から抜けきっていませんでした。 羽化不全のために身動きが取れなくなっていたようです。 飼育下でも脱皮不全や羽化不全を見てきましたが、自然状態でもうまくいかない場合があるようです。 |
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笹の葉裏で羽化中の個体(羽化不全) 地上から50センチほどの笹の葉 |
日光で透けて見えている前肢の殻の中には正常な前肢が見えています。 おそらく触覚部分が抜けることが出来なくて羽化不全になったと思われます。 |
シラキトビナナフシは、脱皮や羽化を行うことで成長することが出来ます。逆に、脱皮や羽化が出来なければ成長は出来ず、生死にかかわってきます。 しかし、この成長に必要な脱皮や羽化は、必ずしもうまくいくとは限りません。中には失敗して、体が変形したり肢が脱落したりすることもあります。また、失敗して死んでしまうこともあります。 |
シラキトビナナフシの場合は、羽化して成虫になると翅が生えてきます。 この翅の状態は、個体によって様々です。完全な翅になっている成虫はそれほど多くありません。 多くの個体は、翅が閉じずに開いている、逆に翅が重なりすぎているなど、翅に何らかの不具合を持っています。中には、翅が伸びきることが出来ずにしわくちゃのままの個体もいます。 しかし、羽化殻から脱出しさえすれば、少々の羽化不全状態は産卵などの活動や生存には大きな影響がありません。シラキトビナナフシは単為生殖を行っており、オスの存在とのかかわりがないこと、また、翅は飛翔に使われる様子が無いことも、翅の状態によって生存に影響を受けないと思われます。 |
飼育個体の羽化後の翅の状態を紹介します。 |
@完全な後翅の状態 ほぼ左右の後翅がそろって閉じている |
シラキ19号 | |
A開いている後翅の状態 左右の後翅が完全に閉じずに開いている |
シラキ11号 | |
B重なっている後翅の状態 左右どちらかの後翅が反対側に重なっている |
シラキ16号 | |
C長さの不ぞろいな後翅の状態 左右の後翅の長さが違っている |
シラキ3号 | |
D完全な後翅の状態 後翅の膜質部がうまく畳まさっていない |
シラキ10号 | |
E失敗した後翅の状態 後翅の伸びが途中で止まりしわくちゃのままになっている 前翅も開いている (この個体は6令への脱皮の際に失敗して、左前肢が欠損し、右前肢も途中で折れ曲がっていました。そのため、羽化中に落下して翅をいためた可能性があります。) |
シラキ7号 | |
F羽化中に落下した後翅の状態 Eの個体が羽化の途中で、羽化殻につかまっていることが出来ずに落下してしまいました。 再度、飼育ケースの側面を這い上がって羽化を継続していましたが、途中で後翅の伸びが止まってしまい、革質部も膜質部も完全に伸びきることが出来ませんでした。 |
シラキ7号 | |
これらの個体は、羽化後数日たってから産卵を開始し、長い期間生存していました。 |
2008年12月11日 記述 |
シラキトビナナフシの羽化については、継続して調べて行きたいと思っています。
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