ナナフシの森

-シラキトビナナフシの窓-

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シラキトビナナフシの観察 脱皮

シラキトビナナフシの脱皮について

 シラキトビナナフシは、不完全変態という形態をとる昆虫です。その一生は次のようになります。

卵⇒(孵化)⇒初令幼虫⇒(脱皮)⇒2幼虫⇒(脱皮)⇒・・・⇒6令幼虫⇒(羽化)⇒成虫⇒産卵(単為生殖)⇒卵

 このサイクルの中で、初令から2令への脱皮、2令から3令へ、3令から4令へ、4令から5令へ、5令から6令へ、6令から成虫へ、と6回の脱皮を行います。この中で6令から成虫になるときの脱皮を特に羽化といいます。


 このページでは、2008年のシラキトビナナフシの飼育・観察をもとに脱皮について説明します。

シラキトビナナフシの脱皮の仕組み

①脱皮の説明

 昆虫の脱皮とは、成長の過程で、古い外皮を全て脱ぎ捨てて、新しい外皮と入れ替わることをさします。 シラキトビナナフシの脱皮は、脱皮の前に新しい外皮が古い外皮の内側に作られていて、新しい外皮が出来上がると、胸部の背面に縦の裂け目が生じて、そこから体が前の方に抜け出し始めます。 肢や触覚も束ねた形でここから順に抜け出ていきます。 最終的に体全体が古い外皮から抜け出して脱皮が完了します。 また、脱皮は外皮だけにとどまらず、気管や消化管の表面にも及びます。 脱ぎ捨てられた古いからは、脱皮殻と呼びます。

②脱皮の意味

 シラキトビナナフシの脱皮は、成長と大きくかかわっています。脱皮が行われなければ成長も行われません。 また、ナナフシに見られる肢の再生も脱皮が行われなければ再生しません。 肢が取れた場合、その令では肢が無いままになりますが、次の令への脱皮後短いながらも肢が再生しています。これを繰り返して、成虫になる頃には一定の長さの肢になっています。

③脱皮の仕組み

脱皮の模式図

 シラキトビナナフシ(昆虫)の脱皮には3つの段階があります。

  1. 旧クチクラと、その下に重なっている真皮細胞が分離します。(アポリシス) 
  2. 次に、真皮細胞から上クチクラが分泌し、形成されます。 
  3. その後、キチンとたんぱく質から出来ている新クチクラが形成され、脱皮腺の作用によって保護層が形成されます。一方で、旧クチクラは、真皮細胞が分泌する脱皮液の作用によって下側から消化され、薄い上クチクラを残すだけになります。この上クチクラの線状の薄い部分である脱皮線が縦に裂けて、ここから体全体が脱出して、脱皮が完了します。
  • 脱皮とアポリシスとの間の期間のことをファレート状態と呼びます。
  • 脱皮のときの力は、消化管内に吸い込まれた空気の圧力や、血液の移動による局所的な圧力、または局所的な筋肉の蠕動によります。
    (実際に脱皮中に消化管の部分を見ていると、わずかに残っている内容物が上下しているのが見えます。)
  • 脱皮を起こさせるのは、脱皮ホルモン(前胸腺ホルモン)の働きによります。

シラキトビナナフシの脱皮の様子

①シラキトビナナフシの脱皮の説明(採集直後の脱皮画像)

ここをクリック

 野外採集直後のシラキトビナナフシの4令への脱皮の写真です。(2008年7月20日撮影)
コナラの木から採集した後、移動中のタッパの中で脱皮を開始したシラキ13号の記録です。
脱皮を開始してから脱皮の終りまでの全過程を約10秒間隔の画像で載せています。

②シラキトビナナフシの脱皮の説明(詳細画像)

ここをクリック

 飼育していたシラキ6号の6令への脱皮の写真です。(2008年7月22日撮影)
脱皮開始直後から脱皮が終わるところまでの30分間ほどの様子を約15秒間隔の画像で載せています。

野外でのシラキトビナナフシの脱皮

自然状態で脱皮中のシラキトビナナフシを発見

2008年6月21日 自然状態で脱皮中のシラキトビナナフシを発見する(シラキ5号)

 脱皮は夜間に行われることが多いにもかかわらず、14時過ぎという昼間に脱皮中の個体をミズナラの木で発見しました。最初はイモムシでもぶら下がっているのかと思ったのですが、良く見るとシラキトビナナフシの脱皮中でした。

 頭部を下にし、腹端で脱皮殻に垂直にぶら下がっている状態で、しばらくすると体を持ち上げ葉裏につかまって腹端を抜き取りました。脱皮殻ごとタッパに入れて持ち帰ってくる間に脱皮殻は食べつくされていました。

初令から2令への脱皮です。

14h11m18s
脱皮殻に腹端だけで垂直にぶら下がっている
野外での脱皮(シラキ5号)
14h12m19s
動かずに静止している
野外での脱皮(シラキ5号)
14h15m24s
体を持ち上げて葉裏につかまり、腹端を抜く直前
野外での脱皮(シラキ5号)
14h33m15s
頭部以外は色が薄く爪の部分も白い
野外での脱皮(シラキ5号)

シラキトビナナフシの脱皮失敗について

シラキ7号の脱皮失敗

2008年7月22日、シラキ7号が4令から5令へ脱皮する際に失敗しました。

 気がついたときには脱皮が終わっていて、シラキ7号は飼育ケースの底にいました。良く見ると触角のあたりに脱皮殻が残っています。また、左前肢がなくなっていて、右前肢も曲がっています。 葉に残っていた脱皮殻には、左前肢が殻から抜けずに残っていました。おそらく脱皮の途中で、触覚と前肢が抜けることが出来なくなり、もがいているうちに左前肢が取れて落下したものと思われます。

 このように脱皮に失敗したシラキ7号は、動きは不自由そうでしたが、成虫になって産卵し10月18日まで生きていました。しかし、成虫に羽化する段階でも羽化不全となり残っていた右前肢も取れて、翅も伸びきることが出来ませんでした。 5令で取れた左前肢は再生しませんでした。

脱皮に失敗して落下していたシラキ7号
脱皮に失敗して落下
脱皮殻から抜けきれずに取れた左前肢
脱皮に失敗して取れた左前肢
左前肢が取れ、右前肢が曲がったシラキ7号
脱皮に失敗したシラキ7号
触覚には殻が残っています
脱皮に失敗したシラキ7号

シラキトビナナフシの肢の再生と脱皮

シラキトビナナフシにとって脱皮は、成長していくのに必要であるとともに、欠損した肢の再生にとっても必要なものです。 脱皮が出来なければ成長することが出来ませんし、肢の再生も出来ません。ここでは、採集・飼育した個体をもとに肢の再生について説明します。

①シラキ6号の肢の再生(2令から成虫までの記録)

6月21日に2令採集した時点で左前肢が欠損していましたが、その後の脱皮の度に徐々に再生していき、成虫に羽化した段階では4分の3ほどになっていました。 5節からなる符節は、再生肢では4節しかありません。3令への脱皮のときに取れた触角は、最後まで再生することはありませんでした。

2令採集時(2008年6月21日)
左前肢が欠損していた
2令採集時
3令脱皮後(2008年6月30日)
左前肢が再生している(3分の1)右触覚が基部を残して欠損する
3令脱皮時
4令脱皮後(2008年7月7日)
左前肢が再生している(半分)右触覚の欠損は再生せず
4令脱皮時
5令脱皮後(2008年7月13日)
左前肢が再生している(半分)右触覚の欠損は再生せず
5令脱皮時
6令脱皮後(2008年7月30日)
左前肢が再生している(3分の2)右触覚の欠損は再生せず
6令脱皮時
羽化後(2008年8月12日)
左前肢が再生している(4分の3)右触覚の欠損は再生せず
シラキ6号(成虫)

②シラキ13号の肢の再生(3令から成虫までの記録)

7月20日に3令採集した時点で左前肢が欠損していましたが、その後の脱皮の度に徐々に再生していき、成虫に羽化した段階では3分の2ほどになっていました。 シラキ6号より1令分あとからの再生なので、脱皮回数が少ない分再生した肢も短くなっています。5節からなる符節は、再生肢では4節しかありません。 4令の脱皮では、殻から体が出始めた時点で、左前肢が再生して出てきています。(詳しい様子はこちらの画像を見てください)

3令採集時(2008年7月20日)
左前肢が欠損していた
3令採集時
4令脱皮時(2008年7月20日)
脱皮開始と同時に短い左前肢が再生してきます
4令脱皮時
4令脱皮直後(2008年7月20日)
脱皮殻には左前肢の部分がありません
4令脱皮時(脱皮殻と幼虫)
5令脱皮後(2008年7月30日)
左前肢が再生している(半分)
5令脱皮後
6令脱皮後(2008年8月12日)
左前肢が再生している(半分)
6令脱皮後
羽化後(2008年8月23日)
左前肢が再生している(3分の2)
成虫羽化後

③シラキ7号の肢の再生(6令から成虫までの記録)

7月22日に6令への脱皮に失敗したシラキ7号は、左前肢を欠損し、右前肢を折り曲げてしまいました。また、触覚も脱皮殻をつけたままになっています。
その後、8月6日の成虫への羽化時点で、左前肢は再生してきませんでした。右前肢の曲がりも改善することはありませんでした。

6令脱皮後(2008年7月25日)
左前肢が欠損している
6令脱皮後
羽化後(2008年8月12日)
左前肢は再生していない
成虫へ羽化後

④シラキトビナナフシの肢の再生(まとめ)

 上の観察結果では、2令とか3令の時期に欠損した肢は、脱皮の時点で再生してくることがわかります。
6令の段階まで来ると、欠損した肢は再生することが出来ないようです。
触覚の再生はいずれの段階でも行われることがないようです。

 観察できなかった4令と5令の段階での肢の欠損が再生するかどうかはこれからの観察によります。

シラキトビナナフシの脱皮殻

現在準備中です

シラキトビナナフシの脱皮の場所

 自然状態では、シラキトビナナフシの脱皮は、ミズナラやコナラなどの葉裏で夜間に行われます。2008年6月21日に発見した野外での脱皮は、ミズナラの葉裏で行われていました。 しかし、飼育下などの野外とは違う環境の元では、様々な場所で脱皮が行われます。2008年に観察した例では、水平な葉裏・飼育ケース側面・小さなタッパ内・垂直な葉・飼育ケースの蓋など様々です。 また、脱皮の際、脱皮殻から垂直にぶら下がって静止する場面がありますが、ぶら下がるには十分な空間が確保できないくらい低い位置で脱皮を開始する場合もあります。

飼育ケース側面での脱皮
(2008年8月1日・シラキ9号・5令から6令へ)
飼育ケース側面での脱皮
小さなタッパでの脱皮
(2008年7月20日・シラキ6号・初令から2令へ)
タッパ(9cm×6cm×4.5㎝)
小さなタッパ内での脱皮
垂直な葉での脱皮
(2008年7月7日・シラキ5号・3令から4令へ)
垂直な葉での脱皮
飼育ケースの蓋での脱皮
(2008年7月4日・シラキ8号・2令から3令へ)
飼育ケース蓋での脱皮

 これらのことから、場所が不十分であっても、脱皮の開始時期になってしまうと時間を遅らせたりすることが出来ずに脱皮が始まってしまうと思われます。 特に、シラキ6号の場合は、コナラから初令で採集した後、カバンに入れて持ち歩いている小さなタッパの中で脱皮が始まってしまいました。動いているタッパであり、深さも4.5㎝しかないのに脱皮が開始されていました。


 (2008年12月12日 記述)

 (2008年12月15日 追記)

 (2009年 1月 2日 追記)

シラキトビナナフシの脱皮については、継続して調べて行きたいと思っています。

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